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2007年11月27日 (火)

金田さん、その8


早いもので あの時からもう50年も過ぎた。

「手に職をつけろ」の親の進言もあり、高校を卒業するとすぐ
荘次は東京で手広く植木業をやっていた親戚の元で修行した。



真面目に取り組んだ結果、仕事は軌道に乗り、一時は何人もの職人を
抱えていたし、家庭にも恵まれて故郷の両親を安心させることも出来た。



しかし最近は植木職人を頼む家庭も少なくなったし、
息子も別な職業に就いたので、今はのんびりと仕事をしている。



毎朝、10年前に先に仏壇に入ってしまった妻に手を合わせてから
仕事に向かう。

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今日は久し振りに手入れに来た家で
3時のお茶をご馳走になり、一息ついている時だった。




庭先から「今日は~」の声と共に縁側の方に回ってきた人は…。

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いつか道を訊かれた人…、
思いがけない再会に息が止まるほど驚いた。


     この笑顔だ、これでオレはずっと前の懐かしい笑顔を
     思いだしたんだ。


「偶然ですね、ここは伯母の家なんですよ」

「…」


家の人はニコニコと彼女を招きいれ

「いらっしゃい、麻子ちゃん。 智子はどうしてる?」

「有難う、同じようよ」





荘次の中で時間が逆行していき…、
そして長い長い時間が一瞬でつながった。



きりっとした顔立ちの、この麻子と呼ばれた若い女性、
しかしあの目、あの口元、まさに智子の面影そのものではないか。

ふいに涙があふれそうになって慌てて荘次は目をつぶった。

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急に早くなった動悸を抑えるように一呼吸おいて
荘次は麻子に尋ねた。



「あ、あのぉ、…変な事聞くようだけど、
あんたのお母さんは昔、群馬に住んでいなかっただろうか?」

麻子は一瞬怪訝そうな顔をしたが、
すぐに あっ!と何か思い出したように小さく声をあげた。


「あなたは、もしかしたら
金田荘次さんですか…?」

                   続く…




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                        今日もご訪問ありがとうございます。

先日、申したように今は時間の関係でコメレスはそちらのブログに伺ってます。
その分、「金田さん」をきちんとした形で終わらせるべくせっせと描いてます。
勝手いってすみません。

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2007年11月25日 (日)

金田さん、その7

月曜日、二人の間には微妙な距離が出来ていた。



少し離れたところで一瞬目を合わせた二人はお互いどうやって
つい2日前のくったくのない感情に戻してよいか分からなかった。


智子は父の言葉が深く荘次親子の心を傷つけたであろう事を
幼いながらも感じていたし、
その事を荘次に謝れば、更にまたプライドを傷つけるようで
黙っているしか彼女には方法はなかった。



荘次もまた大好きな智子に謝ってもらうなんてとんでもないと思ったのと、
母、洋子があの時黙って抑えていた強い感情の手の熱さを
忘れられなかった。

そして早く智子がこちらをそっと悲しい目で見る事がない様
願った。

常に智子の視界にいてくれた荘次は、
こうしていつの間にか視界からは外れていった。

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冬休みに入ったばかりの頃、父親の栄転で
智子は急遽東京に引っ越していくことになった。



母親の洋子にはクラスの仲間と見送りに行くよう言われていたが、
多分、何も言えないだろうし、
第一もう智子とはあれ以来ほとんど話しもしてないから
行っても仕方ない。


珍しく北風も吹かず穏やかな午後、
家の前でぼんやりと座りこんでた荘次のところに
智子の見送りから帰ってきた友達が
「荘ちゃん、来てくれなかったねって、智ちゃん言ってたよ」と言いながら
彼女から託された一通の封筒を持って寄ってくれた。

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友達が帰ったあと、封筒を開くと中には
1通の手紙と、あの日智子の母親に写してもらった
写真がはらりとすべり落ちた。


手紙には

「荘ちゃん、とうとう最後までゴメンねと言えなかった弱虫な私を
許してね。おばさんにも本当にごめんなさい。」と書かれていた。


智子を気遣ったつもりが却っていつまでも辛い思いを引きずったままに
してしまった事に初めて荘次は気がついた。

お互いが思いやった結果、却って遠い存在になってしまったのだと。

手にした写真の中の智子の笑い声さえ聞こえてくるような
楽しそうな笑顔を荘次は涙をポロポロこぼしながら見つめていた。

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                     続く…

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毎度まったり更新の私ですが、金田さんシリーズは11月には
終了させる予定でいました。

(12月は仕事が非常に忙しく、あと年末には娘のところにどうやら行けそうなので
サボリきった英語の復習もあるし…等で12月は更新は更に超まったりに)


ところが! まったり過ぎちゃってこのままだと金田さん、12月になっても
終わらない…。


そこで誠に申し訳ありませんが、コメントのご返事はそちらの
ブログに伺っていたします。
(でも励みになるし、なにより読ませていただく私が楽しいほど
ステキなコメントばかりなので、勝手だけどコメントはお待ちはしてます)。

1月からはまたコメレス出来ますので、お許しください。









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2007年11月24日 (土)

金田さん、その6




荘次親子が智子の家の玄関に着いた時、
ちょうど帰宅して事情を聞いた父親が母親に怒っているのが
閉め忘れた引き戸から聞こえてきた。




「だから、僕が前から言っておいただろう?
ああいう躾も出来てない子と遊ばせるんじゃぁないと。

それにあの子は宿題なんかしょっちゅう忘れているそうじゃないか。
智子もあと1年もすれば中学生だ、友達は選ぶべきだよ」



でも、たいした怪我じゃないし、第一智子が悪いのだから、と言う母親に

「以前の智子だったら、そんな無茶はしなかった筈だ。
いいかい?朱に交われば赤くなるのだよ」





荘次の母の洋子は外でじっと聞いていたが、すうっと一息吸うと
玄関の戸を開けた。
荘次の胸は激しく動悸を打って、どうやっていいのかさえ分からず、
ただ黙って母のそばに立っていた。

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深々と腰を折って謝る母の先にやはり自分のせいで大変な事になり、
とまどっている智子がいた。

「荘ちゃん、私…」 何か言おうとしたが、言葉が見つからず
涙ぐんでる智子を見るのはいたたまれなかった。


重い雰囲気を後にして荘次親子はますます強くなった北風に
逆らうように歩いていた。



「荘次…」
ぽつりと洋子が言った。

「あの人達を怒っちゃいけないよ、
誰でも子供が怪我をさせられれば感情的になるもんさ」

北風の中で強く息子の手を握りしめ歩いていく母に

「分かってるよ、なんともないよ」と荘次は答えた。

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しかしいつも働きずめで冷たい母の手が、
つないでる荘次にもその熱が伝わるほど燃えるように熱く、
前を見てるその横顔にもざわざわとした思いがみえるようで
荘次は母を悲しませてしまった後悔でただただ黙って
まだ母を風から守るには小さかったが前を歩いていった。

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2007年11月18日 (日)

金田さん、その5




群馬の小さなA市は11月にもなると急に寒さが増し、
紅葉もすでに山の頂上からふもとまで降りてきて
夜にはこの地方独特の冷たい乾いた風が吹くようになる。




智子の家の庭にある柿の木も大分葉が落ちて、
それは柿の実が熟れて食べごろの目安でもあった。


「取りにおいでよ」と言われて、荘次は家で昼食を食べ終えるとすぐに
(当時、土曜日は半ドンと言われて学校の授業は昼まではあった)、
彼女の家に行ったが、奥から母親が出てきて
カメラを買ったので二人を撮ってあげると言ってくれた。



質素な荘次の家は勿論だが、当時、カメラは誰でも
持っている物ではなかった。


     だから、荘次の緊張した事といったら(笑)…。

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それから荘次は早速大きな柿の木に登り実をもぎ始めたが、
身軽な田舎っ子の彼にしてみれば簡単なことだった。

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下から見上げている智子は最初は不安そうだったが、
そのうちに自分も登ってみたくなってきて
「荘ちゃ~ん、私もそっちに行くよ」と幹に登りはじめた。





慌てて荘次は
「だ、ダメだよ!智ちゃんには無理だよ!」と上から大声で言った。


葉の落ちた柿の木の枝はすっかり乾いて折れ易くなっているのだ。

自分も以前落ちたことのある荘次は、
気をつけないと危ないのを承知していたが、
そうとは知らない智子は「大丈夫、大丈夫」と言いながら
次の枝に足をかけた途端…、
硬いけどもろくなってた枝はバキッと音を立てて…!


智子は枝ごと地面に落ちてしまった。

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幾つもの折れた枝の中に座り込み、智子は痛そうに顔をしかめていたが、
思わず掴んだ枝で切ったのか、右の手の平からは血が垂れていて、
騒ぎで家から出てきた智子の母親は悲鳴を上げた。






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帰宅した荘次から事情を聞いた母の洋子は、彼の手を引いて北風の中、
智子の家に向かっていた。





…智子を彼女の母親が近くの医者に連れていくのに荘次も
付いていったが、申し訳なさでずっと涙ぐんでいた。

幸い、傷は出血の割りにはたいした事なく(それでも2針ほど縫ったが)、
智子に非があると分かった母親は、荘次に気にしない様にと言ってくれた。




しかし洋子の胸は荘次が人様の娘さんにケガをさせてしまった
申し訳なさで一杯だった。


やがて暗い道の先に智子の家が見えてきた。

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2007年11月14日 (水)

金田さん、その4



転校が多くて引っ込み思案だった智子だが、おおらかな荘次のおかげで
段々とクラスの皆と仲良くなっていった。

何よりも心強かったのは、いつも何気ない感じで
近くに荘次が見えていたことだった。

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下校の道順が途中まで一緒なので、ある時には
荘次の家に寄って母親におやつをご馳走してもらうほど、
智子はすっかりこの土地に馴染んでいった。



荘次の父は近くの工場で働き、母親も内職で家計を助けていたが、
二人とも腕白な荘次をそれは可愛がっており、
母親は荘次が連れてくる友達には仕事の手を休め、
つつましいながらも手作りのおやつを出したりしていた。



とりわけ智子が好きだったのは、彼女が台所にある「おたま」で
器用に作ってくれる「カルメ焼き」だった。



ザラメと水、それと炭酸をほんの少し加えたおたまを、
コンロの上で彼女が様子を見ながらかき混ぜると…、

それはぷわ~とふくらんで、あのサクサクした甘~いカルメが出来上がる。

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たまに失敗してふくらまないこと、それさえ智子には
楽しくて仕方がなかった。

銀行員の父が仕事先から貰ってくる高価らしいお菓子よりも
ここでにぎやかに食べるおやつの方がよっぽどおいしいと思えた。

翌春四月、二人はまた同じクラスになったが、
相変わらず荘次は元気いっぱいで、つられて智子も
すっかり明るい子になっていった。



ある日、二人が智子の家で遊んでいる時、
たまたま彼女の父親が早く帰ってきて、初めて荘次と会った。

やり手な銀行員らしく、彼はすばやく値踏みをするかのように見て、
何も分からない荘次は、それでも自分は歓待されていないのを
うっすらと感じた。

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群馬の澄んだ空もすっかり秋の気配が濃くなり、
智子は2回目の秋をここで過ごしていた。



10月末ともなると日が落ちるのも早くなり、
二人は少し茜色に染まり始めた道を急いで歩いていた。

智子は道端の柿の木を見上げて思い出したようにぽつりと言った。

「荘ちゃん、うちのパパね、
いつもキチンとしてなさいって言うの。

私、どうせ転校ばかりしてるし、仲良しなんて要らないと
思ってたけど、でも今はほんとに学校が楽しいの。

いつかは助けてくれて有難う。
これからもずっとお友達でいてね…」




…荘次の顔は夕日のせいだけでなく、ぱぁと赤く染まっていった。

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でもやがて、まっすぐな荘次の心にも悲しみが影を
落とす時が近づいてきていたのを、まだ彼は知りませんでした。



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2007年11月 8日 (木)

金田さん、その3


クラスの皆がなんとなく都会から来た智子に声を掛けづらく感じるように
彼女もまた積極的には同級生達に打ち解けていく事もないまま、
あっという間に一ヶ月がたった。



偶然に荘次の家の先に智子の家もあったので
時々帰りが一緒になることもあったが、照れ屋の荘次は
なるべく遠く離れるようにしていた。

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風に秋らしさも深まってきたある日、

学校から帰る智子の前に、偶然同じクラスの悪ガキ二人が
出くわした。



こういうタイプが先ず思いつく事といえば…



   「や~い、おぐらのモグラ~!」

   「モ・グ・ラッ! モ・グ・ラ!」

(…、ほんとおバカだわ、この年代のボーズは…)

一瞬とまどったけど、すぐ無視して歩き出す智子(冷静だ)。



ただこうなると引っ込みがつかなくなるんだ、このボーズらは。

後ろから調子に乗ってはやしたてる、はやしたてる。


悔しそうに唇をかみしめ、ずんずん歩いていく智子。



すると、急に後ろで

「痛ぇ~!!」の声とポカッ、ポカッの音。





振り返ってみると道端の柿の木に登った荘次が、
悪ガキ二人にガンガン、まだ硬い青柿を投げつけていたのだ。

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「荘次! またお前かぁ!」


いつもケンカ仲間は、木から飛び降りて走っていく荘次を
わぁわぁ言いながら追いかけていった。


三人の姿はすぐ見えなくなったが、遠くで騒ぎ声だけが聞こえ、
やがてはそれも聞こえなくなった途端、
智子は何だか急におかしくなってクスクス笑いだした。




しばらくして何事もなかったように荘次が戻ってきたので
智子はスタスタと近寄っていき、今までの引っ込み思案の自分を
変えるような明るい声で「ありがとう」と言った。


それには答えず、荘次はちょっと赤くなりながら
智子の反対側を向きながら言った。

「クラスの皆はお前と友達になりたいんだよ。
でも俺ら、街の子とどう喋ればいいか分からないんだ、
こっちにはテレビも車もあんまり無いしさ~」



一生懸命話す荘次を見ながら、智子は自分の気持ちが
フワ~と軽くなっていくのを感じていた。

                       続く…

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2007年11月 5日 (月)

金田さん、その2




   さて、 時はさかのぼって、昭和30年代前半。

金田荘次、まだ小学校4年生の絵に描いたようなわんぱく坊主。

当然ながら?勉強よりも遊びが大好き、でもその明るい性格で
クラスでも人気があった。

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彼の住まいは群馬県の小さいけど、緑豊かなA市。

高度成長の時代とはいえ、
当時の都会と地方との間には暮らしぶりには
相当な開きがあった(いわゆる田舎だ)。




そんな時に荘次のクラスに9月になってから、
東京から銀行員の父の転勤でやってきた一人の少女、
小椋智子が転校してきた。


アカ抜けない同級生達に紹介されながら、
彼女は心細そうに立っていたのだった。



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2007年11月 1日 (木)

金田さんの初恋

最近、年寄り夫婦?にはちょいとキツイ忙しさです。

平均して仕事があれば楽なんだけど一度にガガッと来ると、
なんか諸々のストレスでブログにも気がのらない。


そこで気分を思いっきり変えて久し振りの「シリーズ物」をば。

ただし、例によってのまったり更新なのはお許し願います。




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    4月に登場した植木職人の金田さんのお話です

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金田荘次、60才。
息子夫婦は遠くに住み、金田さんは一人暮らし。

秋の爽やかな日、仕事帰りにお気に入りのパン屋でお買い物
(彼はおいしい物好きだ)、ご機嫌で家路を急いでいると…、




「すみませんが、その袋のパン屋さん、ご存知ですか?」

声をかけてきた若い女性は、おいしいと評判のそのパン屋が
どこか分からず、捜していたそうだ。

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場所を聞き、丁寧にお礼を言って その女性が去っていった後、
金田さんはふいにハッとして胸がドキドキしてきた…。


品の良い彼女の顔を思いだしながら、

「まさか…、まさか」とつぶやく金田さんの肩に
赤く染まった落ち葉がはらはらと幾つも散っていた。


                           続く…

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